Interview #04 株式会社アルゴナース 代表取締役 平山英幸さん

Interview #04 株式会社アルゴナース 代表取締役 平山英幸さん

SIBプログラム採択者を紹介するインタビュー企画、第4弾。
今回は、仙台を拠点に、AI技術を活用し、子育て世代のがん患者が「自分の想いを、子どもの未来に残す」ための新しい仕組みづくりに挑戦するヘルスケアスタートアップ、株式会社アルゴナース 代表の平山英幸さんにお話を伺いました。


「自分の想いを、子どもの未来に残すために」 
子育て世代のがん患者が直面する“語れなさ”に向き合う

——治療や生活に追われ、自分の気持ちを整理する余白がない
——家族にも本音を言えず、ひとりで抱え込んでしまう
——子どもに何を残せるのか、考えたいのに考えられない

30〜50代の働き盛り・子育て世代でがんと向き合う人たちは、治療、仕事、家庭が重なる中で、
「自分がいなくなったあと、子どもはどう生きていくのだろうかという問いを、誰にも言葉にできないまま抱え続けています。

病状と日常生活の狭間で揺れる想いが、
言葉にならないまま時間だけが過ぎていく——。株式会社アルゴナースが向き合っているのは、
そんな“語れなかった想い”を、未来につなぐ仕組みです。

平山 英幸さん
株式会社アルゴナース 代表取締役
看護師、博士(看護学)
企業ページ:https://algo-nurse.com/


がんとともに生きる親の「想い」を、子どもに残す 
AIを活用した新しい“人生の記録”のかたち

アルゴナースはこれまで、看護師に特化した人材紹介事業を通じて、医療現場で働く人のキャリアと向き合ってきました。
多くの看護師との対話と、我々の看護師としての経験を重ねる中で見えてきたのが、「患者さんの人生や想いが、医療や制度の枠組みの中では十分に扱われていない」という現実です。

特に、30〜50代の子育て世代でがんと向き合う方々は、治療だけでなく、仕事や家庭、将来への不安を同時に抱えています。
その中で多くの方が口にされるのが、「子どもに何かを残したいけれど、何を、どう残せばいいかわからない」という言葉です。

手紙を書こうとしても言葉が出てこない。
動画を撮るのは心理的なハードルが高い。
結果として、大切な想いを言葉にできないまま、時間だけが過ぎてしまう。

そこで現在構想を進めているのが、AIを活用して、親としての考え方や価値観を少しずつ言葉にし、それを子どもの未来に残していくための仕組みです。

具体的には、AIが問いを投げかけ、患者さんが体調の良いときに短い言葉で答えていく。その積み重ねによって、その人が大切にしてきた価値観や考え方を整理・記録していきます。そして将来、子どもが人生の節目で悩んだときに、アプリを通した相談という形で、親の想いが伝わる。

私たちが目指しているのは、治療や病状の話ではなく、
「親として、どんな生き方をしてきたのか」
「どんな考え方を大切にしてきたのか」
を未来につなぐ、新しい人生の記録のかたちです。

対象としているのは、30〜50代の働き盛り・子育て世代で、がんと向き合うご本人。いきなり誰かに相談したり、重い決断を迫られたりするのではなく、まずは自分の想いを、安心して言葉にしていける入口をつくりたいと考えています。

現在は構想・検証段階ですが、2026年1月からは、AIによる問いかけと記録を中心としたプロトタイプ検証を開始し、プロダクトの形を、当事者の方々と一緒に確かめていく予定です。私が目指しているのは、病気の進行度に関わらず、早い段階から「親として、何を子どもに伝えておきたいか」を少しずつ言葉にし、それを未来へ手渡せる社会です。

母との最期の時間が教えてくれた、人生に寄り添うケアの意味

高校時代、母が乳がんを患ったことが、すべての原点です。
「がん患者さんの役に立ちたい」その思いから看護師となり、がん専門病院での勤務や、大学院での緩和ケア研究に携わってきました。

大きな転機となったのは、一昨年、母を看取った経験です。
限られた時間の中で、これから体に起こりうること、そのうえで母が何を大切にしたいのかを、じっくり対話しました。

悔いがまったくないわけではありません。
それでも、母と一緒に考え、選び、言葉にしながら時間を過ごせたことは、私にとって大きな意味を持つ経験でした。

この経験から私が強く思うようになったのは、人生の最期に必要なのは、特別な言葉や立派な記録ではなく、その人らしい考え方や価値観が、誰かに手渡されていくことなのではないか、ということです。

一方で、周囲を見渡すと、多くの患者さんやご家族が、想いを言葉にし誰かに伝えていく時間を持てないまま過ごしていました。私と母が持てた対話の時間は、専門性を持っていた私だからこそ実現できた“例外”であってはいけない。誰もが、自分の人生と向き合う時間を持てる社会をつくりたい。

その思いが、この事業の原動力です。

仙台というフィールドで、医療の外側に新しいケアを

東北は、医療資源の偏在などの課題を抱える地域であり、病院の外でのケアやテクノロジー活用の必要性が高まっています。加えて、私自身が学生時代から10年以上を過ごし、医療者としてのネットワークを築いてきた土地でもあります。

仙台は、SIBをはじめ、社会課題解決型ビジネスへの支援も手厚く、新しいヘルスケアの実証に適した環境が整っています。

医療とケアの立場から、この地域に恩返しをしていきたい。
そんな思いも、仙台で挑戦する理由のひとつです。

SIBで開けた視界、「本当に向き合いたい課題」に踏み込む勇気をもらった

私は、社会課題解決と事業性の両立を大切にしています。医療者・研究者としては、「こうあれたらいい」という理想や問いから物事を考えてきました。一方で、起業家としては、事業としての成立性や収益性を意識することが求められます。

これまで参加してきたアクセラレーションプログラムでは、それぞれの目的や制約の中で「事業として成り立つか」という視点が重視される場面も多く、その考え方に触れる中で、自身の立ち位置や価値観について考えさせられることがありました。

SIBでは、“解決したい社会課題”を起点に据え、そこから事業性を検討していくプロセスが取られています。その進め方を通じて、自分自身が大切にしたい順序や視点がより明確になり、これまで収益性を重視され感じていた違和感も、前向きに整理されてきたと感じています。

また、これまで自社事業として取り組んできた看護師のキャリア支援に加え、「本当に向き合いたい課題」に目を向けるきっかけを得られたことで、事業の可能性や視野が大きく広がりました。

SIB終了時には、現在のアイデアを実証を通じて事業として磨き込み、次のステージへ進むための準備を整えていきたいと考えています。

医療現場だけではカバーしきれない「心と人生のケア」を

私が、がん患者さんのQOL向上に取り組んできた背景には、看護師・研究者としての知識や経験だけでなく、家族を看取った立場として感じた、切実な願いがあります。

医療の中だけでは、どうしても支えきれなかった部分がある。
だからこそ、医療の外側で、それを補完する仕組みをつくりたい。
それが、今取り組んでいる事業の出発点です。

まずは小さな検証から始め、本当に患者さん自身が「これは子どもに残したい」「この形なら続けられる」と感じられる体験になっているかを、丁寧に確かめていきます。そして将来的には、誰もが早い段階から、「親として、どんな考え方を手渡したいか」を少しずつ言葉にし、未来へ残せる仕組みを、特別なものではなく当たり前の選択肢として社会に根付かせたいです。

そのためには、AIなどのテクノロジーの力を活用しながら、 個人の想いを尊重しつつ、時間や距離を超えて届けられる形にしていくことが不可欠です。

最終的に目指しているのは、「自分の想いは、きちんと未来に手渡せる」 と、誰もが安心して生きられる社会です。

まだ構想段階ではありますが、この問いに共感し、ともに考え、ともに育ててくださる方と出会いながら、この仕組みを少しずつ社会の中に実装していきたいと考えています。


「連携したい」「応援したい」と思った方へ

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SIBでは、以下日程で、採択者と直接出会える機会も予定しています。

 ■2月11日(水・祝)成果発表会「東北ソーシャルイノベーションサミット」in 仙台

 ■3月12日(木)ミートアップイベント in 東京

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