Interview #01 株式会社 Aroma Care Tech 代表取締役 伊藤 里美さん

Interview #01 株式会社 Aroma Care Tech 代表取締役 伊藤 里美さん

SIBプログラム採択者を紹介するインタビュー企画、第1弾。
今回は、仙台を拠点に、研究・実践・テクノロジーを掛け合わせながら、「香りで、誰もが安心して今をまっすぐ生きられる社会」を目指すヘルスケアスタートアップ、株式会社Aroma Care Tech 代表取締役の伊藤里美さんにお話を伺いました。


「香りで、誰もが安心して今をまっすぐ生きられる社会を」
がん患者を支える家族の“声にならない悩み”に向き合う、仙台発ヘルスケアスタートアップ

——症状についてもっと知りたい
——何をしてあげればいいか分からない
——誰かに相談したいけど相談相手がいない

がん患者を支える家族は、日々の不安や葛藤を抱えながらも、支える立場として強くあろうとし、迷いや弱音を口にできないまま過ごしてしまうことが少なくありません。

株式会社 Aroma Care Tech は、そんな家族のために研究と実践、テクノロジーを掛け合わせながら、「安心してなんでも話せる場」と「香りによるケア」を組み合わせた新しい支援モデルに挑戦しています。

伊藤 里美さん
株式会社 Aroma Care Tech 代表取締役
看護師、修士(看護学)
企業ページ:https://aromacaretech.com/


家族と患者を支える新たなケアの形
看護師によるヒアリング×AIパーソナライズの香り

Aroma Care Techが提供しているのは、家族への丁寧なヒアリングを起点とした相談支援と、そこから導かれる香りによるケアです。緩和ケアなど、がん看護の現場を経験してきた看護師が、家族の話にじっくり耳を傾けます。

「本当は聞きたかったこと」
「誰にも言えなかった不安」
「どうしていいかわからない気持ち」

そうした思いを一緒に整理しながら、今、必要なケアの方向性を探っていきます。

ヒアリングを通して、不安、痛み、眠れなさ、落ち着かなさといった状態が見えてきた場合には、香りによるケアを提案します。香りは、患者さんの症状や好み、生活リズムに合わせて調整することで、リラックスや症状緩和に役立つことが知られています。Aroma Care Techでは、こうした科学的知見をもとに、AIを活用して一人ひとりに合った香りを導き出し、安全に使える形で提供しています。

また、家族支援と患者ケアの両方に関わる立場として、医療者との連携も大切にしています。その一環として開催した医療者向けアロマ講座では、香りの基本的な作用や安全な使い方を伝え、実際にロールオンづくりを体験してもらいました。参加者からは、「アロマへの関心が高まった」「現場で活かしてみたい」といった声が寄せられています。医療者自身が香りを理解し、適切に活用できるようになることは、患者へのケアの幅を広げるだけでなく、家族の安心にもつながります。

Aroma Care Tech が描くのは、家族が孤立せず、安心して相談でき、必要な支援につながる社会です。香りとともに「今をしっかり生きる力」を取り戻せる未来。その実現に向けて、「ヒアリング」「香り」「医療者との協働」を掛け合わせながら、患者と家族を包括的に支える新しいケアのかたちをつくっています。

がん患者の家族が抱える「誰にも言えない悩み」

緩和ケア病棟での臨床経験の中で、私は多くの患者さんと、そのご家族の最期の時間に立ち会ってきました。そこで強く感じたのが、家族が「とにかく誰にも言えない悩み」を抱えているという現実です。

患者の前では不安を隠し、医療者には遠慮して質問を控え、家に戻れば「支える人」であり続ける。その結果、本音を話せる場所が、どこにもなくなってしまう。

相談できなかったこと、聞けなかったこと、気づいてあげられなかったこと。
それらが後になって 「心残り」となり、深い悲しみや抑うつにつながることが、研究でも明らかになっています。

この課題に向き合うために生まれたのが、Aroma Care Techのサービスでした。

研究と実践が往復する、仙台というフィールド

Aroma Care Techが仙台を拠点にしているのは、私自身が東北大学大学院(医学系研究科・緩和ケア看護学分野)で研究と教育に携わってきたことが出発点です。がん患者さんとその家族の心のケアを学ぶ中で、研究で得た知見を社会に還元し、実際のケアにつなげていくことの重要性を強く感じてきました。

仙台は、研究で得た学びをすぐに現場で確かめ、現場で見えた課題をまた研究に持ち帰る——
そんな「研究と実践の往復」がしやすい地域です。学内外の医療者とのネットワークも活かしながら、家族の声を丁寧に拾い上げ、よりよいケアのあり方をともに探っていけることは、私たちにとって大きな強みです。

また、仙台・東北の医療現場には、患者さんだけでなく家族にも目を向ける「寄り添う医療」の文化が根づいています。技術や制度だけでは支えきれない領域だからこそ、人に向き合う姿勢を大切にするこの土地で、私たちのヒアリング支援や香りのケアは自然に受け入れられてきました。

私がこの事業で大切にしているのは、想いを尊重すること科学と実践をつなぐことです。エビデンスを大切にしながら、それを現場で使える形に変え、患者さんや家族の小さな変化に寄り添う。知識や技術が「その人の今日を少し楽にする力」になる瞬間を積み重ねていきたいと考えています。

人が誰かを想い、その想いがきちんと届く世界へ。
ここ仙台から、これからも研究と現場とテクノロジーを結びながら歩み続けていきます。

SIBの伴走支援で見えてきた“揺るがない軸”

SIBのプログラムでは、がん患者の遺族17名へのヒアリングを行いました。

そこでは、本当に多様な「心残り」が語られました。どれも大切で、どれも重い。「何を解決すべきなのか」 考えれば考えるほど、迷いが深くなりました。

そんなとき、メンタリングでかけられた言葉があります。
「ひとつに選ばなくていいんじゃない?あなたは“家族の悩みに寄り添いたい”んでしょう?」
その瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、すっとほどけました。

解決すべき課題を一つに絞ることよりも、家族の声に耳を傾け続けることそのものが、事業の核なのだと、はっきり言語化できた瞬間でした。

SIBの伴走を通じて、「何をするか」以上に、「なぜ、これをやり続けたいのか」という軸が定まりました。

患者にも家族にも、そして支えるすべての人にも、「今日を安心して生きられる」選択肢を届けるために

これからも、家族の相談支援と患者さんへの香りのケアを、より多くの医療・介護の現場へ届けていきます。現在はがん領域が中心ですが、今後は慢性疾患や長期療養・在宅ケアなど、幅広い場面で活用できる形へと広げていきたいと考えています。家族が安心して相談でき、患者さんが少しでも穏やかに過ごせる選択肢を、疾患を超えて届けていきたいと思っています。

あわせて、研究で得た知見を企業や自治体、医療機関と共有しながら、「家族ケア」を社会のスタンダードにする仕組みづくりにも取り組んでいきます。家族の悩みは、医療だけで完結できるものではありません。医療機関や介護施設に加え、家族支援に関心のある企業、ウェルビーイング領域のサービス、自治体やコミュニティ支援団体との協業が進むことで、より立体的で切れ目のない支援が可能になると考えています。こうした共創を通じて、家族の声が医療や地域にきちんと届き、患者さんの生活と心に寄り添ったケアが広がる未来をを描いています。

私たちが目指しているのは、「家族ががんになったとき、一人で悩まなくていい社会」です。家族の声を丁寧に聴き、必要な支援につなげ、香りを通して患者さんに穏やかな時間を届ける。その積み重ねが、患者さんと家族の「今」を支える力になると信じています。

「香りで、誰もが安心して今をまっすぐ生きられる社会を」
このビジョンは、私たち一社だけでは実現できません。想いを共有できるパートナーの方々とともに、新しい家族ケアの形を社会に根づかせていきたいと考えています。

仙台発のヘルスケアスタートアップ Aroma Care Techは、研究と現場とテクノロジーを結びながら、一人ひとりの人生に寄り添う挑戦を、これからも続けていきます。


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