SIB中間発表会レポート|東北発インパクトスタートアップを目指す6組の現在地(仙台開催)

SIB中間発表会レポート|東北発インパクトスタートアップを目指す6組の現在地(仙台開催)

TOHOKU SOCIAL IMPACT BOOSTER(以下、SIB)では、2025年12月5日(金)、仙台市内にて中間発表会を開催しました。当会は、完成された事業を披露する場ではなく、プログラム後半へ向けた課題・ネクストアクションの明確化を目的としています。

SIBプログラムは「社会を変えるインパクトを、東北から」をメッセージに掲げ、社会課題の解決に挑むインパクトスタートアップの創出を目的としています。

当日は、インパクトスタートアップを目指す採択者6組7名が、現在取り組んでいる事業の進捗を発表し、メンターの榎本佳代さん、河内将弘さんからフィードバックを受けました。

当記事では、発表の様子をお伝えします。


治療はあっても、「生き方」を支える仕組みがない
― 終末期がん患者の声から見えた医療の課題 ―

平山英幸(株式会社アルゴナース 代表取締役、宮城県)
HP:https://algo-nurse.com/

1人目の発表者は、看護師・研究者としてがん終末期の医療現場に立ち続けてきた平山さん。

自身の母親の闘病と看取りを通じて、終末期がん患者が「どう生きたいか」を考える支援が、医療の中で十分に扱われていない現実に向き合ってきました。

身体的な苦痛への対応は進んでいる一方で、「残された時間の過ごし方」「家族との関係」「治療と人生の選択」といった問いは、言語化されないまま時間が過ぎてしまうことが少なくありません。

現在、平山さんは、患者が比較的元気な段階から自身の想いや価値観を整理できる支援のあり方を検討しています。中間発表では、AIと人の役割分担や、どの瞬間に最も価値が生まれるのかといった迷いも率直に共有されました。

後半戦では、患者や家族へのヒアリングを重ね、患者の困り事を解像度高く特定し、提供価値を絞り込んでいく方針です。


海に依存しないことで、海を守る
― 気候変動時代の新しい水産業モデル―

三上拓也(Awsome Sea合同会社 代表社員、青森県)
HP:https://awesomesea.jp/

青森県を拠点とする三上さんが捉える課題は、日本の水産業の課題です。

「不漁」という一時的な問題ではなく、気候変動による海の変化が、加工・流通・雇用まで連鎖的に崩していく構造的な危機の解決に取り組もうとされています。

特に東北沿岸では、漁獲量の低下に伴い加工会社へのインパクトも大きく、産業を支えるプレイヤー全体の生産力低下につながる深刻な状況です。

その現実を前に、三上さんは発表で「自然が変わったなら、やり方も変えるべきだ」と力強く語りました。

人工海水・完全閉鎖循環型の「陸上養殖」を軸に、供給を止めない水産モデルを構想しています。技術提供にとどまらず、卸・加工・担い手をつなぎ、地域で回る産業として再設計する点が特徴です。

プログラム後半では、黒字化の条件整理や初期投資の担い手を含め、行政・金融に説明可能な実証と数字づくりに取り組みます。


獣害リスクを、地域の“安全インフラ”に変える

服部悠大(BearBell 代表、秋田県)

3番目に発表したのは、現在全国的に急増している猛獣リスク軽減に取り組む、BearBellの服部さん。テーマは、クマなどの出没が日常に入り込み、地域の暮らしを静かに侵食している獣害リスクです。

秋田の大学に通う服部さんは、自身も熊と6回遭遇し、うち1回は生死をかけた追いかけっこをした経験があります。大学の敷地内にも熊が出没したことがきっかけで、現行の獣害情報に関する自治体ごとの情報分断の課題に着目しました。被害情報はエリア毎に分断され、通知が届きにくく、避難等の行動につながらない構造が残っています。

BearBellが開発中のアプリ『クマップ』では、位置情報と連動した出没の即時通知を軸に、行政データやユーザー投稿を組み合わせた全国対応のプラットフォームを構想しています。危険だけを可視化した「恐怖マップ」でなく、「安心マップ」となる設計を重視している点も印象的でした。

プログラム後半では、予測精度の担保や導線の絞り込み、既存防災プラットフォームとの連携を含めた最短の社会実装ルートを探ります。


治療につながらない99%を、見過ごさない
― ネット依存の早期発見から支援へ ―

フリッヅェル・ケンダル、ビルケダール・ハンス(レックステック株式会社 共同創業者、宮城県)

スウェーデン出身のケンダルさん、ハンスさんが共同創業したレックステック社が向き合うのは、こども達のゲーム/スクリーン依存の課題です。当課題は世界的に深刻化しているにもかかわらず、特に日本では治療や支援につながる人がごく少数にとどまっている治療ギャップがあります。本人が問題を自覚しにくいため、家庭内でのコミュニケーション対立、それによる教育機関や病院への相談の難しさが入口を塞いでいます。

二人は、まず“気づき”をつくるファーストステップとして、チャット型のAIスクリーニングツールを開発中です。

中間発表では、ケンダルさんが、学校に限らず保護者にどのようにこのツールを届けるか、どの経路で診断結果を伝えるのが本人との摩擦が少ないかを再検討している現在地を共有しました。

プログラム後半では、ツールの導線の絞り込みと連携先の具体化を進めていきます。


「聞けなかった」という後悔を、ひとりで抱え込まないために
― がん患者家族の後悔・孤立に向き合う ―

伊藤里美(株式会社Aroma Care Tech、宮城県)
HP:https://aromacaretech.com/

緩和ケア領域で看護師として働いてきた伊藤さんは、がん患者の家族が抱え込む不安や後悔に着目しました。医療現場では、患者や家族が「忙しそうだから」と遠慮し、看護師へ質問したい些細なこと、患者が叶えたい「小さな願い」を言えずに、飲み込んでしまう場面が少なくありません。

これまで15人以上の遺族へヒアリングを重ねてきた伊藤さんは、その課題の本質を「遠慮と孤立」と整理しました。がん患者とその家族の悩みは、がんの種類・ステージ、家族関係や状況により、多岐に渡ります。

個別性が高い悩みやニーズが多い状況だからこそ「聞きたいことを気軽に聞ける人がいない」環境になりやすく、忙しい家族が患者の状況を察しながら、手探りで対応を考える孤立した日々を送っているのです。

そこで、伊藤さんは、AIを入口に24時間気軽に家族が相談でき、必要に応じて看護師が関わる仕組みを検討しています。

プログラム後半では、対象範囲を絞り「どこまでをやるのか」「何をやらないか」を決めることで価値の核を明確にしていきます。


「世界に出会う」を、地方の当たり前にする
― 教育から始まる環境設計 ―

沖野昇平(In The Rye株式会社、福島県)
HP:https://in-the-rye.co.jp/

沖野さんが課題とするのは、地方の子どもにとって「グローバル」に触れる機会が遠く、興味や内発的動機が育ちにくい構造です。英語や国際理解教育は行われていても、身近に外国人と出会う機会が少ないため、「なぜ学ぶのか」という実感を持ちづらい。結果として、世界への関心が芽生える前に進路の選択肢が狭まってしまうケースが少なくありません。

福島県大熊町で沖野さんが実践しているのは、語学教育そのものではなく、世界中の人に出会うことが当たり前になる環境づくりです。全国の大学に在籍する留学生ネットワークを活用し、子ども自身が「会ってみたい国」を選び、オンラインで交流するプログラムを展開しています。言語を教える前に、「話してみたい」「知りたい」という動機が自然に生まれる設計を重視している点が特徴です。

価値の核となっているのが、「通訳=教育ファシリテーター」の存在です。単なる翻訳ではなく、子どもたちの素朴な疑問や本音を引き出し、対話を深める役割を担います。異なる文化や背景を持つ相手と、安心して問いを交わせる体験そのものが、学びへの姿勢を変えていくと沖野さんは語ります。実際に、交流をきっかけに「次は別の国の人にも会ってみたい」と関心が連鎖していく様子が現場で確認されています。

中間発表では、学校の授業時間内だけでなく、放課後など学校外の時間帯に生まれる“学びの空白”をどう埋めるかが次の論点として共有されました。また、プログラムを広げていく上で、教育ファシリテーター人材の育成や確保がボトルネックになり得る点も明確になっています。

プログラム後半では、こうした拡張条件を整理しながら、「どこまでを仕組み化し、どこを品質として守るのか」を言語化し、持続的に展開できるモデルづくりに取り組んでいく方針です。


メンター総評

3時間にも及ぶ中間発表会の最後では、参加メンター2名より総評と応援メッセージが贈られました。

榎本さん:価値を絞り、「誰からお金をもらうか」を決めることが後半戦の軸

榎本さんからは、最終ピッチに向けて「新しい要素を足す」よりも、事業の価値をどこに置くかを明確に絞ることが重要だと指摘がありました。誰の、どの瞬間の課題を解くのかが定まれば、プロダクト設計や営業先、資金の集め方も自ずと見えてきます。


また、収益設計については、初期の集金と継続課金を分けて考え、学校・自治体・個人など複数の可能性の中から最初に取りに行く対象を決めることが不可欠だという示唆がありました。

河内さん:早く有償で出し、厳しいフィードバックを回すことが事業を前に進める

もう1名のメンターである河内さんは、事業モデルの違いを整理したうえで、共通して必要なのは「検証と改善のスピード」だと述べました。初期コストが比較的小さい事業であれば、仮説を抱え続けるよりも、早く有償提供し、顧客からの厳しい反応を受けて磨き込む方が精度が上がります。
また、投資についても、考え込むより実際に投資家に話すことで事業の説明力や課題が明確になるとし、プログラム後半では、資金の現場に踏み込む姿勢が重要だとまとめました。


今回の中間発表会で、採択者があえて語ったのは、まだ決めきれていないこと、迷っているということです。

・誰を最初の対象にするのか。
・どこまでを自分たちが担い、どこから連携するのか。
・事業として成立させるために、何を選び、何を捨てるのか。

こうした問いを早い段階で言語化し、フィードバックを受けながら解像度を高めていくこと自体が、インパクトを社会に届けるための重要なプロセスです。

今回の発表を経て、各事業はいよいよ「構想」から「選択」へと進み始めました。
来年2、3月にはプログラムの成果発表、協創を目的としたミートアップイベントが開催されます。

採択者それぞれが、各々の立場から「社会を変えるインパクト」を東北から生み出す土台を築いていけるよう、SIBでは引き続き採択者を応援していきます。

今後の予定|成果発表・ミートアップのご案内

この先、SIBでは2026年2月11日(水)に仙台で成果発表会「東北ソーシャルイノベーションサミット(TSIS)」を開催予定です。
さらに、プログラム期間最後のイベントとして、2026年3月12日(木)には東京都内で、採択者や関係者が集うミートアップイベントも実施します。

中間発表で見えてきた問いや仮説が、どのように磨かれ、どんな形で社会実装に近づいていくのか。そのプロセスを、ぜひ多くの方に見届けていただきたいと考えています。

最新情報について|SNSで随時発信しています

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