Interview #03 株式会社BearBell 代表取締役 服部 悠大さん
SIBプログラム採択者を紹介するインタビュー企画、第3弾。
今回は、「安全を起点に、人と自然が適切な距離で共生できる社会」を掲げ、秋田県を拠点に、猛獣被害ゼロを目指す情報インフラ「クマップ」を開発・展開する株式会社BearBellの代表・服部悠大さんにお話を伺いました。
「安全から共生へ」
“起きてから”ではなく、“起きる前”に守る
東北発・猛獣被害ゼロを目指す情報インフラ 「クマップ」
市街地のバス停、通学路、農作業の現場。
「まさか、こんな場所で出会うとは思わなかった」
近年、クマをはじめとする猛獣との遭遇は、もはや山間部だけの問題ではありません。
BearBellが開発・運営する「クマップ」は、情報集積・AI、即時通知技術を活用し、猛獣との不意の遭遇を“起きる前に防ぐ”ことを目指す安全インフラです。拠点は、獣害の深刻さが最前線で現れている東北・秋田。
学生発のプロジェクトとして始まったこの挑戦は、いま、地域の暮らしを支えるインフラの一角を担う存在へと進化しつつあります。
服部 悠太さん
株式会社BearBell 共同創業者・代表取締役(国際教養大学)
企業ページ:https://bearbell.jp/

日常生活の脅威に、テクノロジーで終止符を
リアルタイム共有 × 即時通知 × AI予測
——どのような事業を展開されているのか教えてください。
BearBellが開発・運営している「クマップ」は、クマをはじめとする猛獣の目撃情報をリアルタイムで共有・通知する安全情報サービスです。住民から寄せられる目撃情報と、自治体が発信する警報やオープンデータを地図上に集約し、猛獣の出没が確認された際には、周辺のユーザーへ約5秒以内にプッシュ通知を届けます。
最大の特徴は、情報を「見に行く」のではなく、危険が迫ったときに、向こうから知らせる仕組みであること。これにより、利用者は危険を即座に察知し、回避行動を取ることができます。
さらに、蓄積されたデータをAIで解析することで「どこに出たか」だけでなく「次はどこに出そうか」までを予測する仕組みの実装も進めています。
対象は、子育て世帯、農林業従事者、アウトドア愛好家、猟友会など、猛獣との遭遇が“もしも”ではなく現実的なリスクである人々です。被害を“起きてから知る”のではなく、“起きる前に避ける”日常の安心を支えることが、私たちの役割です。
また、スマートフォンを使えない高齢者や、作業中で画面を見られない方にも情報を届けるため、音や光で危険を知らせるIoTデバイスの開発も並行して進めています。
ITリテラシーに左右されず、地域の誰もが取り残されない安全網を目指しています。
現在は秋田県内をフィールドに実証段階にあり、2026年夏の本格ローンチに向けて、開発と検証を重ねているフェーズです。


「このままでは、守れない」身近な恐怖から生まれた原点
——事業をはじめようと思ったきっかけを教えてください。
国際教養大学のある秋田県では、クマの出没件数と人的被害が年々増加しています。令和7年度には秋田県内10月だけで5,297件もの目撃情報が報告され、死傷者も出る痛ましい事故も相次ぎました。
アラートメールや行政の仕組みはあっても、情報が届くまでに時間がかかる。自分から見に行かなければ分からない。正直、これでは「命を守れない」と感じました。
「まさか、市街地のバス停で襲われるとは思わなかった」
そんな被害者の声を聞く中で、問題はクマの存在そのものではなく、情報が遅く、受け身である仕組みにあると気づきました。
住民一人ひとりがセンサーとなり、リアルタイムで情報を持ち寄る。
学生という立場だからこそ、しがらみなく技術を取り入れ、スピード感を持って形にできると考え、BearBellを立ち上げました。
課題先進地東北から、全国そして世界へ
——なぜ、東北(秋田県)で起業しようと考えたのでしょうか。
東北、特に秋田や岩手は、クマの出没件数・人身被害数ともに全国でも突出しており、猛獣被害の最前線とも言える地域です。現場で何が起きているのか、どこに危険が潜んでいるのか。現場の痛みを肌で感じられる場所で開発することが、最も本質的な解決につながると考えています。
もう一つの強みは、地域の結束力と協力体制です。自治体、地元メディア、住民の方々が、若者の挑戦に非常に前向きに関わってくれる。この「オール東北」とも言える環境があるからこそ、クマップは実際の生活に根ざしたサービスとして磨かれてきました。ここで成功モデルをつくることができれば、同じ課題を抱える日本全国、さらには海外にも展開できる、そう確信しています。

SIB伴走支援で見えた「事業として続ける」という視点
——SIBの伴走支援を経て、どのような変化がありましたか。
SIBの伴走支援を通じて、「学生のアイデア」だった構想が、社会に実装し、続いていく事業として見えるようになったと感じています。
特に大きかったのは、社会的意義(ソーシャルインパクト)と収益性(マネタイズ)をどう両立させるかを徹底的に考え抜いたことです。
これまでは、「人命を守る」「被害を防ぐ」という強い想いが先行していましたが、SIBではそこに対して、
- 行政コストの削減にどう貢献するのか
- 誰が価値を感じ、誰が対価を支払うのか
- ToCだけでなく、ToB/ToGとしてどう広げていくのか
といった視点を、一つひとつ言語化していきました。
その過程で、「社会的に正しい」だけではなく、「事業として続くからこそ、守り続けられる安全がある」という考え方が、自分の中で腹落ちした感覚があります。
また、同じように社会課題に向き合う起業家たちと出会えたことも、大きな支えでした。創業初期は、どうしても孤独になりがちです。そんな中で、悩みや葛藤を共有できる仲間がいたことは、精神的にも大きな意味がありました。
SIB終了後は、資金調達を含めたスケールのフェーズへと進んでいきます。東北発のインパクトスタートアップとして「社会課題解決と事業成長は両立できる」、そのロールモデルになる覚悟が、ここで固まりました。
安全の先にある、「共生」という未来へ
——今後の展望を教えてください。
私たちが向き合っているのは、単なる「害獣駆除」や「被害防止」ではありません。クマを排除すべき存在として見るのではなく、その生態を正しく理解し、人間側が適切な行動をとることで、無用な衝突は避けられると考えています。
ただし、その前提となるのが安全です。
人の命と暮らしが守られてこそ、自然を受け入れ、「共生」へと進むことができる。私たちはテクノロジーを使って、その“安全から共生へ”の架け橋をつくりたいと考えています。
まずは2026年度中に秋田県内での普及を進め、2027年に東北6県、2028年以降は全国へと段階的に展開していく計画です。一般利用者向けアプリ(ToC)に加え、鉄道会社・電力会社・自治体などを対象とした法人向け(ToB/ToG)システムの開発も進め、社会インフラとしての導入を目指します。
将来的には、ドローンや定点カメラと連携した自動検知、AIによる行動予測の高度化にも挑戦します。人の目や投稿だけに頼らず、危険の兆候を早期に察知し、自動で通知できる状態を実現することで、安全の水準を大きく引き上げたいと考えています。
こうした取り組みを進めるうえで、高精度なAI解析や耐久性の高いハードウェア開発に知見を持つエンジニアや製造パートナー、また社会インフラとしての導入を共に考えてくださる自治体・企業との連携が欠かせません。加えて、アウトドアメーカーとの商品連携や、地域の観光事業者と連携したエコツーリズムの可能性など、「安全」を起点に地域の価値を広げていく協業にも取り組んでいきたいと思います。
また、蓄積されたビックデータを活用し、保険会社と連携した新たな獣害保険の設計や、研究機関・大学へのデータ提供を通じた生態系保全への貢献など、獣害という「マイナス」を、その先の人と自然が豊かに関わり合う新しい社会システムの構築につなげていきたいと考えています。
このような取り組みを通し、2030年までに全国規模での普及を実現、年間売上15億円規模の事業へ成長させることを目標としていますが、私たちにとって最も重要なのは売上ではありません。
クマに襲われるという悲しい事故をゼロにすること。
人々が恐怖に怯えることなく、自然の豊かさを享受しながら安心して暮らせる日常を取り戻すこと。
人と動物が無理のない距離感の中で共存できる社会を実現すること。
安全から始まり、共生へ。
それが、BearBellが目指す未来です。

「連携したい」「応援したい」と思った方へ
この記事を読んで、 「何か関われることがあるかもしれない」「応援したい」と感じた方は、ぜひSIBの活動をフォローしてください。
SIBでは、以下日程で、採択者と直接出会える機会も予定しています。
イベントの詳細や参加方法、採択者の最新の動きについては、TOHOKU SOCIAL IMPACT BOOSTERの公式Instagram・Facebookで随時お知らせしていきます。
採択者の挑戦を応援したい方、協業や連携に関心のある方は、ぜひフォローのうえ、今後の情報をご確認ください。
■Facebookページ:https://www.facebook.com/tohokusib
■Instagramアカウント:https://www.instagram.com/tohokusib.sendai/
■SIB特設サイト:https://tohoku-socialimpactbooster.jp

